siki jitsu - murmur note. 

1.
 誰も気付けない母親の表情に娘だけが気付く。
 誰も癒せない母親の恐怖を娘だけが癒せる。
 けれどその過程には必ず暴力がなければいけない。
 そこに暴力がある限り、決してまっとうには慈しみ合えない。
 そんな母子関係。
 
 娘は痛いとか、辛いとか、昔は歳相応に泣いたり言ったりしていたんだけど
 この日を最後に、あんまり言わなくなったのでした。


2.
 本人が覚えていないような他愛ない一瞬でも、それで救われる人がいるのかも。
 救った側からすればいい迷惑かもしれないが。

 赤子の笑顔は世界を救うそうです。
 成長した彬は異端のせせりのことなんて邪魔者としか思っていませんが
 もしこの時、赤子の彬がせせりを見て笑わなかったら、せせりはあんなに良く笑う子にはなれなかったはず。
 
 夏虫叔母はせせりを嫌っていないけど、可哀想すぎて、申し訳なくて、逆に笑いかけたりできないのです。
 母親以下、他の大人は言わずもがな。

3. 
 日常的な児童虐待の話。
 生まれてすいません、というきもちの発露。
 彬への、というか分家の子(新菊や残雪たち)への負い目は、成長しても勿論消えません。
 この頃の娘はきちがいママンへの人身御供。

 この頃に蜘蛛が怖いのは、
 遺伝子に含まれている蝶の遺伝子(せせりの場合はモーゼスからの遺伝)が、
 まだ年齢が幼いのと、周りに能力について教える人間がいないために意識的制御ができず、本能と感覚だけで暴走しているという理由。
 書いてる途中「隣の家の少女」(ケッチャム)になりかけて慌てて軌道修正、したのにこれか。

 幼女のパンモロに気付いた人には百万点。

 壱冬:本家の長。蛇ノ目のなかで一番偉い。怖いおじいさん。娘に期待をかけていた。
 夏一:元本家長女。壱冬より年上。気性が荒いが身内には甘い(自分の孫達に可哀想と連発)
 冬嗣:元本家次男。一見紳士然としているが、実際はどこか破綻している(あんな子供放り捨ててしまえ発言)

4. 
 自分なんて死ねばいい。
 そう強く思っている間は、正直、死ぬことはあんまり怖くない。
 その瞬間はもっと怖いものが他にあるし、もしかしたら死んだほうが楽になれるかもしれない。
 だけど、決して素晴らしくはない自分自身を引きずって(=自己嫌悪やコンプレックスと向き合って)、それでももっと生きていたい、生きていることが幸せで、それ自体が愛しい、そう思ってしまったら、死ぬことは急に怖くなるのかも。

 自分を乗り越えるとか、自分の弱さと向き合って克服するとか、美談のようだけど場合によっては残酷なこともきっとある。
 大人になった娘は、精神的にも母親との関係的にも少しだけ(本当に少しだけ)まっとうな方向へ成長してしまったので
 刹那的に生きていた高校生の頃よりも、ある意味では弱くなりました。
 死ぬことが怖いっていうのは勿論そうあるべき人間の姿だけど、でもやっぱり残酷なこともあるよね、っていう話。

 柚子の花は五月に咲きます。
 娘は二十五歳の初夏、よく咲いた柚子の樹の下で死にます。

5. 
 娘から母へ向けるきもちは恋愛にすごく似ています。
 なんでも赦せちゃう盲目さとかね。
 母親に限らずとも娘は多分誰のことも赦して愛してしまうけど、ここまで盲目になるのは母親だけ。
 残雪とかに対しては、盲目に言うこと聞いてるようで、実は案外しっかり見てる。

 赦せば赦すほど、好きになればなるほど、赦される理由と好かれる理由がわからない母親(の恐怖心)に拒絶されて殴られるんだけど、さみしい娘はそれすら赦して、いっそ喜んでしまうという悪循環。
 言葉が足りないことは罪だし、理由のない愛や、一方的に向けられる理解も、物事に理由を求める人や、自分の行動に罪悪感のある人にとっては、ただのおそろしいものにしか見えないのかも。
 抱きしめられて、泣いて逃げたくなるきもち。

 自分を食べてくださいと言い遺して、目の前でウサギが火に飛び込んだとして。
 そこにいるのがただの人間だったら、果たしてその気持ちをまっすぐに受け入れられたのかな、という話。
 冒頭は『ジャータカ物語 月の中のウサギ』から。

6. 
 マザコンの母親は微ファザコンでしたという。
 強姦魔の姿を母親はぼうやりと記憶していましたが、家の体裁が悪い等の理由で本家は犯人を追いませんでした。
 勿論家の中での"異端"バッシングは更に強くなり、それは全部、娘が背負うことになったのでした。
 
 責任転嫁と、それに気付いている自分と。
 生まれたばかりの赤子と母親はまだテレパシー(シンパシー?)で繋がっているんだそうです。
 この時に春歌が、おかしくなりかけている頭の奥で、赤子の首を絞めながら、赦して、赦して、と願ったことが、もしかしたら娘に届いていたのかもね。

 娘が成長して行くにつれて母親も少しずつ回復していきます。
 やっと少しだけまともに向き合えるようになった頃には、もう何もかも遅すぎたのでした。

7. 
 夏虫へのものとは違って、宛先の人物に渡せなかった手紙。
 あなたの精神の犠牲の上で、わたしは幸せに生きていました。
 ごめんなさいごめんなさいありがとう大好きでした。
 冒頭は『智恵子抄』から。

8. 
 再従兄(ドS)と娘。
 残雪が圧倒的優位なようで実はそうでもなかったりして。

 何だかんだでわりと頻繁に会って(やって)ます。きっと仲良しです。片方ドSだけど。ひどいや!
 間違った(でもある意味正しい)青春を、いつでも残雪だけが独走中。恋の病、大迷走。
 両想いで一緒に迷走してるなら、まだ救いがあったかもしれないけどね。
 冒頭は『螺旋階段』から。

9. 
 wait plz...

10. 
 子孫を残すことは人間の本能だと言うし、多分それは間違っていないと思う。
 ただ、アニマルじゃなく人間に生まれてきた以上、子孫残すにも産みっぱなしってわけに行かないから、
 色々考えたり、ためらったり、人によっては拒否したりするんだろう。

 人間は死の間際になると、子孫を残そうという本能が強く働くそうです。肉体的なものだけじゃなく、精神的な欲求としても。
 残り少ない自分の力を振り絞ってでも、自分の子孫を強いものにしようとするんだって。
 これも多分そういう話。

11. 
 wait plz...




 

photo:cider / ©rosycrazy /