siki jitsu - 01 

――あなたが泣くと悲しかった。
あなたの泣き顔すら好きだと思った。
――あなたが安らかであるように願った。
そのためなら何だってしていいと思った。

世界はひどく美しくなった。




いたいよう
いたいよう。
どうしてかなあ
ねぇ、
おばさま、
おかあさんは、どうして、せせりのことぶつの?
せせりは、おかあさん、すきだけど
おかあさんは、ちがうの?

いたいよう。
いたい、
……いたいよう……。


おかあさんは、せせりのこと、ばけものだっていうよ。
せせり、ばけもの、なの?
きっと、そうだよね。
おかあさんは、うそなんていわないよね。
せせりがばけものだから、みんなせせりのこと、きらいなんだね。

おかあさんと、おんなじいろがよかったな。
みんなと、おんなじいろがよかったな。
……どうしてせせりだけ、ゆびがくずれるの?

おばさま。
おばさま?
なかないで。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
なかないで。
せせりがわるいことしたから、ないてるんでしょう?





あのね、おばさま、きいて
せせりね、ひとつ、わかったの、わかったことがあるの

おじいさまも、おかあさんも、せせりをぶつけど
おじいさまはおこって、ぶつの
せせりがそばにいくとおこるの。

でもね、でもね、
おかあさんは、ないてくれるの
せせりをぶつとき、ほんとうはないてくれてるの
なみだがでないけど、ないてくれてるの
きょう、わかったの。


おばさま、
あのね、
ないしょにしてね。

せせりは、おかあさん、すき。
おかあさん、やっぱり、やさしいから、すき。


だからね、だから、
ばけものってなにか、わからないけど、たぶん、せせりのことなんだよね?
だから、
せせりは、おかあさん、すきだから
おかあさんが、ないてくれるの、うれしいから
はやくなきやんでほしいなあって、おもうから、

だから――
――うん。
――いいの。


――だいじょうぶだよ。
――いたく、ないよ。




 

photo:cider / ©rosycrazy / index /