siki jitsu - 10 

――何も生み出せないまま消えるなんて、せつないでしょう。




 ――うん。
 後悔、しないよ。
 どんな絵にしてもらうかも、決めた。

わたしが死んでも残るくらい、綺麗な蝶にして。
わたしが死んでも遺るくらい、優しい子にして。
わたしが死んでも飛べるくらい、強い翅を持たせてあげて。

 いつか、言ってたよね。
 わたしの命を二つに分けて、
 この、刺青の蝶にも、ちゃんといのちが宿るって。

 半分じゃなくていい。
 わたしの命、全部あげる。
 だからどうか、強い子にしてあげて。

昨日からまた痺れて動かない左手も
最近何だか重くなった身体も
怪我の治りが遅くなったことも
もう鱗粉の蝶がうまく作れないことも
――今は、見えない振りして笑うから。

 ……大丈夫。
 思ってたより、痛くないよ。
 つづけて――

笑うから。
終わりが近いことくらい、知ってるって言うよ。
全然、怖くなんかないって言うよ。
笑うから――。
だから――。

 ――この蝶が、完成したら、さ
 再従兄に、見せてもいい?
 ――うふふ
 うん
 意地っ張りで、ひねくれてるけど、優しい、いい子だよ

 ――しせいさん
 あのね
 わたしには、子供を産んだり、育てたり、できないけど
 どんな気持ちなんだろうね
 誰かと自分を捏ね合わせて出来た、まったく違う生き物が、成長していくの――は
 ――嬉しい、かな

 ……、
 この子に、
 わたしの命、全部、あげるから
 あげるから――。


わたしが死んでも残るくらい、綺麗な蝶にして。
わたしが死んでも遺るくらい、優しい子にして。
わたしが死んでも飛べるくらい、強い翅を持たせてあげて。

いつか来る終わりの日にも、わたしの代わりに空を飛んで。
遺されてしまう人たちに、届くくらい、飛んで。



 

photo:cider / ©rosycrazy / index /